打越眠主主義人民共和国

”うちこし”と読みます

易占いについてその一 占的を絞る

これから何回かにわけて、易という占いについての記事を書きたいと思う。現実で付き合いのある友人諸氏であれば知っていると思うが、私が十年ほど趣味でやっている占いで、ここしばらくは仕事にも使っている。

当たるのか、と問われれば百発百中とはいかないと答える。しかし半々は超えて、六七割ぐらいは的中しているのではないかという肌感覚はある。自分自身人生で岐路にたったと感じたときに何度かこの占いに頼ってきた。

記事を公開するのは第一に自分の今持っている知識を整理するためである。何かの形でアウトプットするのはいい勉強法だと思う。私の易に関する知識はすべて独学で読んだ本も少ないから、記事の内容の正しさについてはなんの保証もない。個人的にノートなどにまとめることも考えたがあえて記事を公開するのは、誰か見識のある人がこの記事を見つけて私の拙い誤りを指摘してくれないかと期待するからである。

易の解説をするにあたって大学の講義の初回がそうするみたいに、背後にある古代中国の陰陽思想であるとか、その歴史的成り立ちから始めてもいい。しかしそれは今後に譲って、初回は占いの現場で私がやっている占い方を書いてみることにする。

例として挙げるのは私が過去に友人や客から受けた実際の相談だが、当然個人を特定できないよう内容は伏せたり改変を加えている。なお自分のことではないかという心当たりのある方から苦情を受けた場合には書き換えるので、そのときは申し出ていただきたい。

 

客は若い男女の二人連れである。小綺麗な女と、体格がよく声に張りのある男。二人とも身なりがよく、自分に自信を持っているという印象を受ける。カップルのようにも見えたがいくらか他人行儀が残っていた。聞いてみると最近アプリで出会って付き合い始めたがまだ日は浅いということであった。

易について簡単に説明し、なにか占いたい具体的な悩みや疑問はあるかと問うと、男のほうが自分の出世を占って欲しいのだという。

出世。どういう出世か。会社のなかの出世かあるいは立身出世して有名になりたいのか。出世して何がしたいのか、金持ちになりたいとか? なら出世とはいわないか。

私はまず客に対して、この易という占いの特徴は問いかけが詳細であればあるほど、占いの答えも詳細になることだ、と説明した。

「例えば転職の占いでしたら、今の会社にこういう不満がある、自分にはこういうスキルや経験がある、だからこういう業界に挑戦したい、といったことです。しかしそういった事情を話せない、あるいは話したくない理由があるならそれでも構いません。その場合は漠然と、いいかわるいかだけを占うことになります」

これは毎回言っている定型句だ。たいていの客はそう言われて初めててうーんうーんと考えはじめるのだが、この男はすこし違った。

「私は商社に勤めていてですね……実は最近昇進しました。でも聞きたいのはそれじゃなくてですね。私は政治家になりたいんです。なれますか?」

「政治ですか。いいですね。占えますよ。しかし問題なのは、ゴール地点をどこに置くかということです。例えばカップルの仲を占って欲しいといわれると、あなたたちはどれくらい真剣につきあってらっしゃる? 結婚まで考えていますか、と私は尋ねます。二人が真剣なら結婚してその後の夫婦生活が幸せにになるかどうかという、長い目で占うわけです。そういうのじゃないけどとりあえず付き合ってるんですっていうんなら、逆に目標を決めずただ二人の相性を占う。つまり目標がまずあって、それを達成できるか否かを占うのがいいわけです。あなたは政治家としてどこまで出世したい? やっぱり目指すとすれば首相?」

首相という言葉を出すと男は笑って、いやそこまでは望まないが大臣にはなりたいと答えた。なんの大臣か聞くと地方の過疎化に問題意識を持っているので総務大臣国交相あたりをやりたいとのことだった。

私は出世の度合いよりもこの男の関心分野について掘り下げてみようと思った。過疎問題をやりたいきっかけを聞くと、いわく男は山陰の田舎の出身で、父が県議会議員なのだという。

「すると政治家は政治家でも、地方議員という選択肢もあるわけですね。世襲して……」

「そうなんですが、私は絶対に国会議員がいいんです」

「中央に行きたいと。それは過疎化問題は国じゃないと解決できないからですか」

「それもありますが……」

「それだけではないわけですね。中央で政治家になりたい理由はいろいろあるじゃないですか。それで社会に貢献したいとか、有名になれるとか。あるいは……純然たる野心」

「野心ですね! 結局のところ野心ですわ」

これによって占いの主題は過疎化問題を解決できるかとか、政治家として希望のポストに就けるかどうかということではなく、純粋に本人の立身出世であるということがわかった。すると問題になるのは、それを達成するための障害である。

男の家は地方政治家として長く政権与党と深い関係を持ってきたが、地元の国会選挙区はその政権与党のある政治家の地盤である。つまり自分の地盤を活かそうとすれば党内で下剋上せざるをえない。

「そんでもってその政治家の息子も世襲政治家で、比例で当選して国会にいるんですが、自分と同い年なんです」と男は憤慨した。

最終的に占いの目標をどこに設定するか、何通りかパターンが考えられたが、男は「先生にお任せしたいです」と言ってボールをこちらに投げてきた。

「じゃあずばり、あなたが地元で立候補したときにその政治家に勝てるか。それでやってみましょう。当選したあとのことはここでは考えませんから」

 

やや長ったらしい説明になったので読者は退屈したかもしれないが、実のところこのやり取りは易占いをする上で本当に重要なので、詳しく描写した。

占いの内容を詳しく分析し、問いを明確化するこの作業を”占的をしぼる”という。相手がなにもかも話してくれるならそれに越したことはない。例に挙げたこの男はよく喋るほうで、思考も明晰、目標は明確。野心を抱くだけのことはあると感服した。

大部分の客はこうではない。漠然と起業して自分の店を持ちたいとか、漠然と今の会社をやめたいが先のことは考えてませんとか、そういうのが多い。

客の話を聞いて、状況を理解し、ありうる選択肢を示す。そのなかで一番理想的な結末はどれか、なぜそれを選ぶか。彼彼女が使える資源と手段、障害、本人の人間性。こういった要素を俯瞰的に把握すると、その客のキャラクター性のようなものが私の頭のなかでイメージとして立ち上がってくる。そこまで行ってはじめて本当にしっかりした占いができると思う。

 

記事が少し長くなったのでここでいったん一区切りにする。次回は道具を使って実際に占いの結果を出し、相手に伝えるところまで。