いや~~2018年クソだったな~~~~ほんまにろくでもない年だった。単位は取れへんわ、創作は行き詰まるわ、私生活もわけわからんトラブルばかりの一年だった。こういうときは読書に限る。生活を救うのは読書だ。
そういうわけで2018年度のよかった本、印象深かった本をまとめていく。出版年ではなく年度内に読んだ本なので昔の本とかも混じる。
なんで年度かというと、もともと2018年よかった本のつもりで三ヶ日の間に八割ぐらい書いて、今日の今日まで放置してたから。こういう小さいことをどんどん後回しにしているときは人生がうまく回転していないときである。新年度は切り替えていきたい。
ルトワックのクーデター入門 新版
本書で示されたテクニックは政治的に中立な立場に立って論じられたものであり、国家の権力を奪うという目的のためだけに書いたものであって、その後の政策をどのようにすべきかという点については、まったく関与するものではない。(初版まえがきより)
読んでるところを職場の上司に見られたくない本グランプリ2018、優勝!!!
著者のエドワード・ルトワックは軍人から軍事学研究の道に進んだ異色の経歴の持ち主で、アメリカ国防総省のアドバイザーや、国家安全保障会議のメンバーも勤めたというプロの戦略家。軍事戦略の分野ではけっこうなビッグネームで、現在はアメリカ戦略国際問題研究所顧問である。趣味は日本の温泉。最近は日本人向けにうさんくさいけど話は面白いタイプの新書を書いて小遣い稼ぎしてる。
そんなルトワック氏がキャリアの最初期だった1968年に書いて大受けした『クーデター入門』がこの度2018年に待望の新版で再登場というわけだが、内容はきわめて実践的で面食らう。クーデターに必要な前提条件はなにか(例:地方政府が強力な連邦国家では困難)。クーデターに必要な戦力はごく少数だがその少数の戦力をどう確保するか、いいかえれば既存の武力装置をどう掌握するか。軍や警察などの武力装置の大部分を一定期間中立化させる必要があるが、どうやるか。公安機関は最大のリスクだが、クーデター成功の公算が高ければ寝返らせることも可能。How to 首都の交通と通信を封鎖。などなど、実際的実践的な話しかしない。クーデターってそもそもよくないんじゃない? みたいな野暮は一切無い。最高だな!
一番印象に残ったのは新版の前書きで、ここで紹介されているエピソードによると、モロッコの国防長官だったモハンマド・ウフキルが1972年にクーデターチャレンジするも、無残に失敗。後の国王親衛隊の捜査で、血まみれの『クーデター入門』(初版フランス語訳)がウフキルの机から発見されたという。
いや失敗してるやんけ。 駄目なのでは?
実際のところ、筆者が本書を世に問うたのは「発展途上国における政治の究極的な意味を探るため」たしい。暴力が全て的な意味か? とにかく本当にクーデターのマニュアルを書きたかったわけではないらしい。とにかく迫力のある一冊であるといえる。
兵士というもの ドイツ兵捕虜盗聴記録に見る戦争の心理
第二次大戦中、英米が捕虜収容所に盗聴器をしかけて、無警戒な捕虜たちの会話から情報を収集していた。記録は戦後も機密指定のもと保存されていたが1996年に機密解除。これを歴史家のゼンケ・ナイツェル氏が発見し、社会心理学者のハラルト・ヴェルツァー氏と協力して分析した、その研究成果が本書である。
盗聴されていることを知らない捕虜たちの会話から伺える兵士たちの世界。そこには食事や睡眠と同じくらい身近な現象としての”暴力”がある。「爆弾を落とすのがやみつき」「機関銃でもって地上の敵兵を追い回し、何発か浴びせて地面の上に這いつくばらせるのが、朝飯前のお楽しみ」など、兵士たちが楽しげに暴力行為を語る様には、驚きを禁じ得ない。こうした兵士たちの身内の会話は基本的に資料に残らない。そうした兵士たちの内面に迫る、これまででもっとも有効な資料は野戦郵便だったが、これも家族に宛てたものであるからある程度のフィルターは通っている。その野戦郵便をこれまで研究してきたという訳者が衝撃を受けたと認めているぐらいだから、この研究分野で本書が起こしたセンセーションは相当なものだろう。
18年度でもっとも学びの大きかった一冊である。
ロイヤル・ネイヴィーとパクス・ブリタニカ
高二のときに買って以来6年?ぐらい積んでいた本。
六人の研究者、元軍人、現役幹部自衛官(将来の海上幕僚長と期待された英才だったが早世したという)らが集まって、各々の分野で英国海軍をテーマに論集を著したという一冊。
当時の英国の外交・安全保障戦略と、その手段の一つとして活用される英国海軍を追った部分が特に面白い。軍事戦略の本はどれも政治と軍事の協調と後者の前者への従属を説いているけれど、原則と理論の説明ばかりで実例を読んだことはなかった。
英国海軍よもやま話として読んでも面白い。国際政治、戦略、組織改革と、リーチする範囲の広い一冊だと思う。おすすめ。
ニューヨーク1954
1953年大晦日。53年はおしなべていい年だった。スターリンはついにくたばったし、赤のスパイだったローゼンバーグ夫妻はシンシン刑務所で電気椅子にかけられたし、朝鮮戦争も、結果は思ったほどではなかったにしても、とにかく終わった。CIAはイランから赤のモサデクをたたき出して、パーレビを王位に就けなおし、ソ連に中東で好き勝手をさせないことを教えた。たしかにダウ式平均株価は280.9と300を下回り、年初から12.5ポイント下げてはいるが、そんなものはじきに変わることをみな知っている。民主主義の宝庫にして世界を照らす自由の灯台であるアメリカは、地球上でいちばん豊かで、いちばん強い国だ。1954年はすばらしい年になるだろう。核兵器のことなど忘れろ、赤の脅威など忘れろ。今夜のニューヨークはたしかな明日への喜びでわくわくしている。生きているのは楽しい。
本屋でふと手にとって立ち読みしたら、この書き出しに惚れてしまったという一冊。時代と空間の雰囲気を見事に切り取った文章だと思う。
ニューヨーク市警の刑事キャシディは、ブロードウェイのダンサーが自宅の安アパートで拷問を受けて殺害された事件の捜査を担当する。だが彼の部屋は収入に不釣合いな高級家具があった。ダンサーの不法な収入を疑うキャシディら捜査班だが、FBIが不可解な捜査妨害を開始する――。
事件解決までの筋道そのものはもちろん、魅力あふれるキャラクター、赤狩り・冷戦など特有の時代背景がからみあった魅力的な一冊。
2018年は個人的に刑事小説元年だった。相次いで刊行されたエイドリアン・マッキンティの北アイルランドもの三作『コールド・コールド・グラウンド』『ザ・サイレンズイン・ザ・ストリート』『アイル・ビー・ゴーン』は主人公ショーン・ダフィの一筋縄でない個性と、北アイルランドの世紀末的政治情勢(ほぼ全ての事件がオウムとジオン軍残党が合体したみたいな地元密着型テロ組織と絡んでいる。絶対暮らしたくない)が興味を惹く。シリーズは本国だと六作目まで出ているらしいのでこの調子でどんどん翻訳して欲しい。
舞台設定がおもしろいといえば古い作品だけどレイ・デイトン『SS-GB』も面白かった。ナチス占領下のロンドン。警視庁の刑事はナチス上層部から不可解な任務を与えられる。ナチス内部の権力闘争、幽閉された国王を取り戻そうとするレジスタンスの暗躍。いくつもの展開が徐々に合流していく。一節一節の独立性が高い文章は最初はとっつきにくかったけど読んでいくうちに癖になった。同じ作者の短編集『宣戦布告』と合わせておすすめしたいが、いずれも絶版。
傾いた夜空の下で
新進気鋭のツイッター詩人である岩倉文也さんの初詩集。岩倉さんの登場で日常メンヘラツイートツイッタラー全員が時代遅れになったのでは? ドレッドノート登場でそれ以前の戦艦が全部オワコンになったみたいな感じで。
折れ曲がる傘傘立てにつき刺してぼくらは夢の終わりを生きる
読んでるとナルトのコラ画像みたいな顔しながら「天才か……」ってつぶやく以外のムーブが不可能になってしまう。日々のなかの一コマ一瞬に抱く感情を切り取るその鋭いといったらない。18年度もっともおすすめの一冊。
映画『リズと青い鳥』の公開記念に。
武田綾乃先生の描く高校生の人間関係には圧倒的迫力がある。深海の水圧に潰される要領で、感情の圧に殺される作品。
響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章 前編 (宝島社文庫)
- 作者: 武田綾乃
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響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章 後編 (宝島社文庫)
- 作者: 武田綾乃
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FEAR 恐怖の男 トランプ政権の真実
大統領就任以来、世間と世界を騒がせ続けているトランプ政権の暴露本。出版自体が話題を呼んだし、本屋に平積みされていたので表紙を見かけた人は多そう。
あまりに集中力がなくて五分以上のミーティングに耐えられないアメリカ大統領。ホワイトハウスの女性広報部長が元モデル。米韓の安全保障協定を破棄する内容の大統領親書を、大統領秘書官が勝手にシュレッダーにかけて両国を影で救う。国務長官(外務大臣に相当)がツイートでクビにされ、本人がツイッターアカウントを持っていないので部下が印刷して見せる。大統領首席補佐官が「ここは狂気の世界なんだ……」という言葉を残して辞任。などなど、開いた口が塞がらない驚愕エピソードが目白押しの一冊だ。
本書を特徴づけているのはその情報源の豊富さと特異さだろう。上で挙げた大統領主席補佐官や国務長官などの閣僚級も含めた、元・現役を問わない政権関係者にインタビューを行っている。それだけにトランプがブリーフィング中に罵詈雑言を飛ばす場面など、文体はその場にいるかのような臨場感をもっている。著者ウッドワード氏はインタビューにあたって「ディープバックグラウンド」というルールを採用していて、これは情報を自由に利用する代わりに、情報源の身元は徹底的に秘匿するというもの。インプット・アウトプット双方において、ジャーナリスト個人への絶対的信頼がなければ成立しない手法である。
それもそのはず、著者のボブ・ウッドワード氏はかのウォーターゲート事件でニクソン政権を告発し、ピュリッツァー賞を受賞した伝説的ジャーナリストなのだ。現在はワシントン・ポスト副編集長だがほとんど出勤していないとのこと。こういう人材をストックできるのが社会の豊かさだよな~とか思った。
トランプ政権暴露本といえば、『炎と怒り』もけっこう話題になった。情報源が本書ほど豊かではないし、政権意思決定プロセス(というより、プロセスの欠如)を主題に設定した『FEAR』に比べると、政権内部の人間関係に焦点を絞った分小粒の印象はぬぐえないが、まだまだ読む価値はあると思う。
他にも佐藤大輔氏逝去をきっかけに『征途』を数年ぶりに読み返したり、三年かけてちんたら読んでた『白鯨』の上巻をついに読了したり、ミシェル・ウェルベックの翻訳が出ている長編をかたっぱしから読んだりした。小説以外だとここで紹介しなかったけどデレク・ユアン『新説 孫子』もいい。戦略と兵学の本はちまちま読み続けている。この分野の奥山真司先生のご活躍凄まじいですね。
趣旨からちょっと外れるかなと思って扱わなかったけど漫画も豊作だった。完結を迎えた『少女終末旅行』はとりわけよかった。アニメもよかった。クラブ百合漫画『アフターアワーズ』は完結記念イベントに行ったのがきっかけになって、月に一回ぐらいのペースでクラブに通うようになった。漫画をきっかけに新しい遊びを開拓したのは地味に初めてかもしれない。完結というと感慨深いのは『かさね』で、ここでとうてい要約できない激動激情を見事にまとめきったと思う。名作だ。追っていた作品がこう次々と終わってしまうと寂しい気持ちもある。『大砲とスタンプ』『少女戦争』もいよいよ終盤っぽい雰囲気出してきてるし……。
振り返ってみるとけっこう充実した読書年間だったかもしれない。来年もどんどん読んでいこう。